ビジネス書を閉じよう。仕事を豊かにする「マンガ」の力

仕事の悩み、答えはビジネス書ではなく「マンガ」の中に?『葬送のフリーレン』と『ふしぎの国のバード』から、スキル以上に大切な「人間理解」のヒントを探るニュースレターです。ハウツーに少し疲れたあなたに、新しい視点を届けます。

ビジネス書を閉じよう。仕事を豊かにする「マンガ」の力
<目次>

ビジネス書に、違和感を覚えた日

若いころ、私はずっと焦っていました。「成長しなければ」「役に立つことをインプットしなければ」と、ビジネス書や新書を読み続けていました。物語に時間を使うのは遠回りだと思っていたからです。

ところがある時期から、ふと違和感を覚えるようになりました。

ビジネス書が提示するのは、課題解決のための「即効性のある処方箋」です。でも、本を読んだだけで問題が解決するわけではない。その当たり前の事実に正面から向き合ったとき、何かが変わり始めました。

年齢を重ねるにつれ、仕事の成否を分ける本当の鍵は、スキルや知識以上に、周囲の人とどう関わるかにある――そう実感するようになったのです。

小手先のハウツーを追いかけるより、自分とは異なる人生を歩んできた他者を理解しようとすること。多様な価値観に触れて感受性を耕すこと。そちらに時間をかける価値があると、少しずつ考えが変わっていきました。

今は、楽しみのために、そして心を豊かにするために、ジャンルを問わずマンガを読んでいます。「マンガを読んでいる」と言うと驚かれることが多いのですが、その理由はこの二冊を読めばわかってもらえる気がします。

「なぜ、もっと知ろうとしなかったんだろう」

一冊目は『葬送のフリーレン』。今や多くの方がご存知のファンタジー作品です。

主人公は1000年以上を生きるエルフの魔法使い・フリーレン。魔王を倒した勇者一行と共に旅した10年間は、彼女の長い人生の中ではほんの一瞬のはずでした。ところが旅から50年後、仲間だった勇者ヒンメルが老いて世を去ったとき、フリーレンは葬儀で静かに涙を流します。

「なぜ、もっと知ろうと思わなかったんだろう」

たった10年の記憶が、1000歳を超える彼女の心を動かし、その後の行動を大きく変えていく。人間ではないフリーレンの視点を通して、「誰かを理解するとはどういうことか」という問いが、静かに、でも深く刺さってきます。

この問いは、職場でも同じだと思います。目の前の人のことを、私たちはどれだけ「知ろうとしている」でしょうか。

「外側の目」が映し出すもの

二冊目は『ふしぎの国のバード』。実在したイギリス人女性冒険家イザベラ・バードの旅行記『日本奥地紀行』を原作にした歴史マンガです。

舞台は明治維新後の日本。バードは通訳の日本人男性・伊藤と共に、当時未開の地だった蝦夷を旅します。彼女の目に映るのは、ありのままの日本の姿です。障子に穴を開けて異人を覗く村人、貧しさから満足な食事もままならない暮らし。

実話ベースだと知ると、通訳の伊藤が感じたであろう感情が一層リアルに迫ってきます。自国の姿を外側の目で見られることへの、戸惑いと恥じらい。

価値観も文化も異なる二人が、旅を通してどう互いを見て、どう関係性を築いていくか。異文化理解というテーマを、理論ではなく物語として体験させてくれる一作です。

ハウツーではなく、「人間」を理解する

この二冊に共通するのは、答えを教えてくれないということです。処方箋はありません。その代わりに、「他者を知ろうとする姿勢」と「外側の視点を持つこと」の意味を、物語として体験させてくれます。

フリーレンが後悔したように、バードと伊藤が摩擦の中で理解を深めたように――人と働くということは、相手を「知ろうとし続ける」プロセスそのものです。

ビジネス書を一冊閉じて、マンガを一冊開いてみる。その非効率に見える時間が、実は一番遠くまで連れていってくれるかもしれません。