普通の人が「100万分の1」のレアカードになる方法。原田マハとゴッホに学ぶ、キャリアの掛け算
「小説はビジネス書以上に仕事の役に立つ」。アート小説の第一人者・原田マハのゴッホ作品3選を紹介しながら、その圧倒的な解像度の裏にある「キャリアの掛け算」の秘密に迫ります。藤原和博氏の理論を交え、普通の人が「100万分の1」のレアカードになるための戦略を紐解くBookPick
「小説は、ビジネス書以上に仕事の役に立つ」
もしそう言われたら、あなたは信じますか?
コラムニスト・のりーが読んだ本の中から仕事に効く一冊を紹介する「BookPick」。今回取り上げるのは、アート小説の第一人者・原田マハさんの作品です。
彼女の描く物語は、エンターテインメントの枠を超え、読む人の仕事観やキャリアに対する考え方を激しく揺さぶる力を持っています。
なぜ彼女の小説は、これほどまでに私たちの胸を打ち、ビジネスの現場で生きる私たちにも刺さるのでしょうか?
今回は、原田マハさんのライフワークとも言える「ゴッホ」を描いた3つの傑作を紹介しながら、その圧倒的な解像度の裏にある「キャリアの掛け算」の秘密に迫ります。
正直に白状すると、私自身、もともと美術やゴッホに詳しいわけでも、特別な関心があったわけでもありません。しかし、そんな「アート素人」の私でさえ、彼女の小説は理屈抜きに面白いと感じ、気づけば夢中で読み進めていました。
ゴッホを巡る「掛け算」の三部作
原田マハさんの作品の中でも、ゴッホが登場する以下の3冊は、それぞれ全く異なる視点(掛け算)で描かれており、読み比べることでその凄みが際立ちます。
① 『たゆたえども沈まず』 :「アート × ビジネス(戦略)」

まずご紹介するのは、ゴッホと弟テオ、そして実在した日本人画商・林忠正を描いた『たゆたえども沈まず』です。
この作品の白眉は、ゴッホの生涯をただ悲劇として描くのではなく、浮世絵ブーム(ジャポニスム)を仕掛けた「敏腕ビジネスマン」林忠正の視点が入っている点です。
当時、日本では「散り紙」や「割れ物の詰め物」同然に扱われていた浮世絵の価値を見出し、パリで「高値で売れるアート」としてプロデュースした林忠正。才能があるだけでは不十分であり、それを世に出す「戦略」がいかに重要か。ビジネスパーソンこそ読むべき「アート×ビジネス」の物語です。
② 『リボルバー』 :「アート × ミステリー(鑑定)」

2冊目は、ゴッホの自殺に使われたとされる「銃」を巡る『リボルバー』です。
「ゴッホは本当に自殺だったのか? もしかして……」
オークション会社に持ち込まれた一丁の錆びついたリボルバーを起点に、史実の隙間を大胆な仮説で埋めていく歴史ミステリーです。ここには、モノ(遺物)から真実を透視する、鋭い鑑定眼のような視点が光っています。
③ 『板上に咲く』 :「アート × 継承(情熱)」

3冊目は、「わだばゴッホになる」と叫んだ版画家・棟方志功を描いた『板上に咲く』です。
ここではゴッホは主人公ではなく、棟方志功にとっての「憧れの対象」として登場します。ゴッホの影響を色濃く受けながらも、模倣ではなく、日本の「板画」という全く別の花を咲かせた棟方。
「影響を受けること」から「オリジナリティ」を生み出すエネルギーに満ちた、「アート × 継承」の物語です。
なぜ、原田マハにしか書けないのか?
これら3作品を読んで痛感するのは、「これは美術史を知っている人じゃないと書けない」という圧倒的な説得力です。