「誰かに聞かないと進めない」をどう変えるか?――ルールで自走するチームへの3冊
なぜ人が増えるほど忙しくなるのか?「人間API」としてエナドリを飲み続ける組織のバグを解明します。「確認不足」を根性で補うのをやめ、情報の「正解」を仕組みで定義し、チームを自走させるための3冊を、実体験をもとに独自の視点で読み解きます。
3月から、新しい職場で働き始めます。
転職して間もないのに「また?」と思われるかもしれません。在職期間は1年とちょっと。今週のBookPickでは、それでも次へ進む決断をした理由を3冊の本と一緒にお話しさせてください。
ある朝礼で起きた「砂の城」の崩壊
ある朝礼でのことです。
担当者Aと顧客のやり取りは、気づけば二者間だけで完結していました。CCを入れていたのかどうか、詳細はわかりません。ただ結果として、他のメンバーには何がどこまで進んでいるのか、まったく見えていない状態になっていました。
当然、Aが休職して突然いなくなった瞬間、誰も状況を把握できませんでした。結果、顧客の信用を失いました。
全体会議でそれが報告されました。上長の言葉はこうでした。
「お客様の信用を失ってしまいました」
そして出てきた対策は、「確認します」「複数人でチェックを入れます」でした。
一連の経緯を見て、私は静かに確信しました。この組織は、いずれ自重で崩壊するな、と。
人間APIがエナドリを飲み続ける理由
ツールはあります。NotionもSpreadsheetも、SlackもChatworkもTeamsもメールも使っています。でもそれらはバラバラに存在していて、情報として統合されていません。
だから「あの件、どうなってる?」と知るには、人に聞くしかありません。その人が休んでいれば、また別の人に聞く。誰かがわかるまで聞き続ける。
これが「人間API」です。ツールとツールの間を、人間がつないでいる状態。
その結果、21時を過ぎてもアリナミンやモンスターといったエナジードリンクを片手に、口頭確認という名の「接点業務」をこなし続ける人たちが生まれます。そしてあろうことか、そういう人が「頑張っている」と評価されてしまうのです。
でも冷静に考えてみてください。人数が増えれば増えるほど、確認のための接点は指数関数的に増えます。お客さんが倍になれば、忙しさも倍になります。これでは永遠に忙しくなるだけ。ビジネスとしてスケールするのは難しいでしょう。
何が問題なのでしょうか。
組織の中に、迷ったときの「地図」を持っていますか?
根本にあるのは「情報の正解がどこにあるか決まっていない」こと。専門用語で言えばシングルソース(SSoT)の欠如だと私は思っています。
「ここを見れば、すべての疑問が解決する」という場所が組織の中に存在しない。その状態が、担当者への口頭確認や、深夜まで続く接点業務というバグを引き起こしているのです。
その問題意識から、今回はこの3冊を選びました。
ミスの原因を「根性」に求めてはいけない

「確認します」「複数人でチェックを入れます」。この言葉を聞いた私の違和感を、言語化してくれたのがこの本です。
本書が語る「犬の道」とは、解くべき問題を正しく設定しないまま、ただ作業量を増やし続けることを指します。朝礼での「敗北宣言」がまさにそれでした。問題の本質は「確認が足りなかった」ことではなく、「誰でも情報にアクセスできる仕組みがなかった」ことです。
なのに対策は「もっと人を増やす」。頑張る量を増やす前に、頑張る方向が正しいかを問う。それがこの本の核心です。
人数が増え、顧客が増えるほど、間違った方向への努力は指数関数的に積み上がっていきます。「忙しいのに成果が出ない」という状態に心当たりがあるなら、まず立ち止まってこの本を読んでみてください。
迷った時に「これさえ見ればいい」という地図を作る

コロナ禍を機に一気に加速したリモートワークが、ここ数年で揺り戻しを迎えています。製造業や医療・福祉のように、物理的にその場にいることが不可欠な仕事があるのは当然です。
ただ、それ以外の業種では、リモートワークを成立させるための組織運営は、すでに十分可能なはずだと私は思っています。
にもかかわらず「やっぱりオフィスに戻ろう」という流れが生まれるのはなぜでしょうか。リモートワークそのものに問題があったのではなく、情報の管理や共有の仕組みが整っていないまま、見切り発車で始めてしまったからだと思います。
リモートワークは「コミュニケーションの難しさ」を新たに生み出したわけじゃありません。もともとそこにあったバグを、可視化しただけです。
だからこそ、「うちはリモートじゃないから関係ない」という話では全くありません。むしろ逆です。
オフィスにいれば、隣の人に「あの件、どうなった?」と聞けます。一見便利に見えますが、それは「人間API」を温存させているだけに過ぎません。「直接話せばいい」という甘えが、ドキュメント化を怠らせ、誰かが欠けた瞬間に崩れる砂の城を作り上げます。
冒頭の休職の話は、まさにそれです。物理的に同じ場所にいながら、情報はブラックボックスのままでした。
リモート組織は、物理的な接触がないので「情報をシングルソース化しないと死ぬ」という極限状態に置かれます。だからこそ仕組みを作らざるを得ません。
その解決策は、出社している組織にも同じように効きます。むしろ「直接聞ける」という逃げ道がある分、オフィス勤務の組織の方が問題に気づきにくいです。気づいた時には、砂の城がすでに完成しています。
会議や口頭確認といった「同期コミュニケーション」に頼る組織は、人数が増えるとコミュニケーションのパスが爆発します。全員がモンスターやレッドブルを飲むハメになるのは、必然でしょう。
一方、「どこを見ればいいか」が定義されていれば、上司の承認や担当者の返信を待たずに、個々が自走できます。これが「非同期化」の強みであり、スケールする組織の条件です。
揺り戻しの本当の原因が「リモートワーク」ではなく「仕組みの欠如」にあるとしたら、オフィスに戻ることは解決策になりません。この本が問いかけているのは、働く場所ではなく、情報をどう設計するか、です。
感情ではなく「ルール」が個人の自由を支える

朝礼で「お客様の信用を失いました」と嘆いた上長を、私は責める気にはなれません。ただ、あの場面はまさにこの本が警告する「感情マネジメントの罠」そのものでした。
情報がブラックボックス化した組織では、リーダーは「機嫌」や「熱量」でしか人を動かせなくなります。何が起きているかが見えないから、「頑張っている」という姿勢が唯一の評価軸になります。
エナジードリンクを飲んで遅くまで残っている人が評価され、仕組みを整えようとする人が「効率ばかり気にしている」と映る。歪んだインセンティブは、こうして生まれます。
本書が説くのは、感情や精神論を排除し、ルールと仕組みでミスを物理的に起きにくくするマネジメントです。そしてそれを実現する前提条件が、GitLabが提唱する「情報の透明性」に他なりません。
3冊はバラバラに存在しているのではなく、根っこでつながっているのです。
マクドナルドが証明した「標準化」の威力
誤解してほしくないのですが、私は「属人化」を否定したいわけではありません。