出口治明氏に学ぶ『逆境』の作法。13歳がホーム・アローンで描く新しい地図

かつての正解が、今はもう正解ではないかもしれない」。円安や物価高という荒波の中で、私たちはどうやって子供たちの、そして自分自身の「地図」をアップデートすべきでしょうか。13歳の息子を持つ親の視点から、出口氏の教養論を実践的な「戦略」へと落とし込んだ考察をお届けします。

出口治明氏に学ぶ『逆境』の作法。13歳がホーム・アローンで描く新しい地図

こんばんは。のりーです。

先週のニュースレター「九州NOW」では、Appleの生成AI戦略を入り口に「新しい地図を持つ」という話をしました。自分が信じる地図は、常にアップデートしていく必要があるのではないか、と。

では、実際にどうやって新しい地図を手に入れ、実践していくのか?

今回紹介したいのは、私が若い頃から目標にしている出口治明さん(元APU学長)の著書『逆境を生き抜くための教養』です。

「教養」は、絶望を「現状把握」に変換する力

出口治明さんは、60歳まで日本生命で働き、その後ライフネット生命を創業。さらに立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務めた方です。大企業の管理職、起業家、教育者——いわば「マジョリティ」の側を歩んできた人でした。

しかし、72歳で脳出血に倒れます。失語症、右半身麻痺。その瞬間、彼は初めて「マイノリティ」の側に立ちました。

興味深いのは、そこからの振る舞いです。他の人なら打ちひしがれてしまうような状況ですが、彼は現状を嘆くのではなく、客観的な事実(データ)を集め、「いかに早く社会復帰できるか」を計算してリハビリに挑んだ。

なぜ出口さんはそうできたのか。出口さんによると、困難な状況に陥った時、物事を冷静に判断し解決策を導き出す力になるのは、専門知識ではなく「幅広い教養」だと言います。彼の著作に一貫して流れる「知は力なり」という思想が、私は大好きです。

歴史(タテ)に学び、世界(ヨコ)に目を向け、データ(算数)で事実を見る。私自身も若い頃から、出口さんの姿勢に影響を受けてきました。

大分の山奥の大学が6000人の留学生に選ばれる理由

今回『逆境を生き抜くための教養』を読んでおもしろかったのは、大分の山奥にある大学(APU)に、コロナ禍でも海外から6000人もの留学生が集まっているという事実です。

『生き抜くための教育』出口治明の著書表紙。黄色地にタイトルと著者写真

正直に言えば、私もAPUの存在は知っていたものの「大分にある大学」という情報だけで、過小評価していました。でも調べてみると、そこには日本人が気づいていない「地図の読み替え」があったのです。

APUは最初から日本の偏差値競争に乗りませんでした。その代わり、AACSB(国際認証)という「世界標準のライセンス」を取得しています。日本人にとっては「早慶上智や関関同立じゃないから…」と映るかもしれませんが、世界の地図上では「東大や慶應と並ぶ、質の保証されたビジネススクール」として光って見えるのです。

さらに、地方だからこその戦略が見事です。物価が安く、治安が良い。そして世界中から人が集まるため「圧倒的に投資対効果(ROI)が高いネットワーク構築の場」として、世界の優秀な層から選ばれています。

様々な国から人が集まるカオスな環境。日本人はそれを「摩擦(コスト)」と捉えがちですが、APUはそれを「価値(投資)」に変えている。通じない言葉、違う価値観を前提としたコミュニティこそが、グローバル人材を育てる最高の教室になっているわけです。

私たちは「正解」の賞味期限が短い時代を生きている

ここから、私自身の話をさせてください。

我が家の子育て方針は、子どもたちをどこでも生きていける自律した個体として社会に送り出すこと。それこそが親の責任だと考えています。

そのためには、「摩擦」が必要だと思います。異なる価値観、異なる文化、異なる言語。12年前の首都圏から地方への移住や、2年前の天草から熊本への引っ越し、天草で主に外国人を対象にした農家民宿をしていることには、意図的に摩擦を体験するという狙いもありました。

なぜ摩擦が必要なのか。

「通じない」「わかってもらえない」というフラストレーションの経験は、自分自身と周囲の環境を客観視する必要性に変わります。そこから、他者と合意形成するための伝える力や、自分だけでなく相手のメリットを考えるといった視点が養われていく。

どこでも生きていける自律した個体にとって必要なのは、専門知識ではなく、こうしたサバイバル経験だと私は信じています。

摩擦のある環境に身を置くことで、人は本当の意味で自分の頭で考えるようになる。なので、将来は海外という選択肢も視野に入れたい、とずっと思ってきました。

とはいえ、従来の選択肢——アメリカやヨーロッパへの留学——は、経済的な面で我が家にとって現実的ではありません。もう少し現実的な方法はないのか。

5年前の正解は、台湾だった

そうして5年前、私が辿り着いた答えが台湾でした。

当時、そうした「摩擦のある環境」は日本国内にはほぼないと思っていました。経済合理性と環境の両面を満たすものとして、台湾は完璧に見えたのです。物価も学費も日本より安く、アジアのハブとして多様性もある。英語と中国語が学べて、治安も良い。

ところが、去年の夏に家族で台湾を旅行したとき、驚きました。物価が日本より高かったのです。これは滞在費がものすごいことになるな……。5年前に描いていた「安い台湾」という地図は、もう古くなっていました。

経済合理性という前提が崩れた以上、台湾はもう正解ではなくなりました。

また振り出しに戻ったわけです。

本を読んで、地図が書き換わった