「かわいそう」決めるのは誰?視線の正体を見つめ直す
「子ども食堂、うちの子は関係ない」と思ってた。熊本で出会った青年が、私の「普通」をひっくり返してくれた話。「かわいそう」というレッテルを剥がし、地域の居場所について考えます。

去年の春、私たち家族は、天草から熊本市内に引っ越してきました。しばらくして、小学校の近くに「子ども食堂」があると知ったんです。
学校のプリントで見た娘が「行ってみたい」と言うのですが、正直なところ、私は「うちみたいな普通の家の子が行っていいのかな?」と、少しだけためらいました。なんとなく、「特別な支援が必要な子のための場所」というイメージがあったんですね。
それで運営している方に思い切って聞いてみたら、「もちろんです!誰でも来てください」と。行ってみると、そこは困っている家庭のため、というより、地域の誰もが立ち寄れる「居場所」でした。駄菓子が買えたり、夏はかき氷を出してくれたり。
去年はうちの子たちも、毎週のように通うように。夏休み前は、夫が「子どもたちにどうぞ」と、冷凍みかんを差し入れたこともありました。
そんな体験があったからこそ、「子ども食堂って、誰でも行っていいんだな」と感じていたのですが、この気づきを、もっと深く考えさせてくれる青年との出会いがありました。
Webメディア「CareCare」の取材でお会いした、宮津航一さん。熊本で活動する、学生起業家です。
✨九州NOW:”特別”でも”普通”でもない。「人を育てる居場所」へ
宮津さんは、熊本市の慈恵病院に設置された「こうのとりのゆりかご」、いわゆる「赤ちゃんポスト」の第1号です。
「こうのとりのゆりかご」の設置は、当時、本当に様々な議論を呼び、全国的なニュースにもなりました。賛否両論ありましたが、慈恵病院が信念を貫き続けた結果、今ではその活動に触発されて同様のポストを設置する病院や自治体も現れています。たとえ強い反対があっても、信じる道を歩み続けることで社会的な役割を確立した、象徴的な例と言えるでしょう。
宮津さんは、こうのとりのゆりかご第1号であることをご自身の名前で、オープンにして活動しています。その経歴を聞くと、私たちはつい「大変だったろうな」という目で見てしまいがちです。でも彼と話していると、その眼差し自体が、相手を勝手なストーリーに押し込めてしまうのかもしれないな、と考えさせられます。
「かわいそう」という、やっかいな壁

宮津さんは里親家庭で育ちました。小学生のとき、友達とケンカをして、相手の親から家に電話がかかってきたことがあったそうです。電話に出た里親のお母さんは、静かに話を聞いていましたが、あるとき、強い口調でこう言いました。
「うちの子は、そんな子じゃありません!」
相手が口にしたであろう「親がいないから」という心ない言葉に、本気で怒ってくれたお母さん。その姿が本当に嬉しかった、と宮津さんは話してくれました。
「僕は一度も、自分のことをかわいそうだと思ったことはありません」
そう語る彼の姿から、一人の人間として、本当に大切にされてきたんだなということが伝わってきました。そしてこの経験が、今の活動に繋がっています。
「『あそこに行くと、かわいそうな子だと思われる』。そういう世間のイメージが、本当に居場所を必要としている子を、かえって来づらくさせてしまうんです」
これ、私が最初に「行っていいのかな?」と感じた気持ち、そのものでした。宮津さんは、この「かわいそう」という、やっかいなレッテルや壁を、なくしたいのだと言います。
彼が目指しているのは、特別な子のための場所ではなく、誰もがふらっと立ち寄れる地域の交差点みたいなところ。お腹が空いた子も、一人でご飯を食べるのが寂しい子も、宿題をしたい子も。どんな子でも当たり前にそこに来て、温かいご飯を囲みながら、いろんな世代の人と自然に繋がれる。それはまさに、地域ぐるみで「人を育てる」大切な場所なんですよね。
そして宮津さんの活動は、子ども食堂という「居場所」づくりだけにとどまりません。地域の子どもたちがいろんな世界に触れるきっかけをつくる「子ども大学」といった教育活動にも力を入れているんです。子どもたちの今と未来を、いろんな角度から支えようとしているんですね。
福祉の視点が暮らしを「リデザイン」する
宮津さんのような、熊本で活動する人の話を聞いていると、福祉とか、地域のことに関心を持つことが、どう私たちの暮らしを良くすることに繋がるのか、そのヒントが見えてきます。
近所の子ども食堂ってどうなってるんだろう?と興味を持つ。それは、これまで自分には関係ないと思っていたことに、目を向けてみることです。そして、「普通はこうだよね」とか「あの人はかわいそう」といった、自分の中にある思い込みに気づくきっかけにもなります。
そういう小さな気づきが、他の人への想像力を少し豊かにしてくれたり、自分の役割を「この町に住んでいるだけの人」から「この町の一員」へと、ちょっとだけ変えてくれたりする。
これって、大げさなことじゃなく、自分の暮らしや働き方を、より自分らしく見直していく「リデザイン」そのものじゃないかな、と思うんです。
🎨リデザインのためのアクション
- 知る: まずは「〇〇市(あなたのまち) 子ども食堂」で検索してみませんか?HPやSNSを覗いてみるだけでも、「へぇ、こんなことやってるんだ」という発見があるはずです。
- 考える: 誰かに対して「かわいそう」と感じたとき、「なんでそう思うんだろう?」と、自分の心の中をちょっとだけ覗いてみる。その気持ちが、相手を決めつけてしまっていないか、少しだけ考えてみる。
- つながる: 行きつけのお店の人に「いつもありがとう」と伝えてみる。地域のイベントを少しだけ覗いてみる。そんな小さな関わりが、暮らしを少しだけ温かくしてくれます。
宮津さんの活動についてもっと知りたい方は、CareCareさんの記事もぜひ読んでみてください。私たちが暮らす地域について、一緒に考えるきっかけになったら嬉しいです。

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