「熊本でうまくいく?」私が見た、ローカル経済の“高速進化”
コラムニスト・のりーがお届けする「九州NOW」。メディアが報じる「半導体バブル」の裏で、熊本で起きていることとは? 「作る人」の隣で急速に育つ「つなぐ人」たち。単なる“お茶飲み場”が“協働インフラ”へと高速進化する現場から、これからの時代に求められる「人間性」の意味を探ります。
街路樹の葉が、色づきはじめてきましたね。あなたの周りでは、どんな「変化」が起きていますか?
変化、といえば。今週は、地域のリアルな鼓動をお届けする「九州NOW」。舞台は、ここ熊本です。
「半導体バブルで、景気がいいんでしょ?」
確かにそう。メディアもそう報じます。でも私がこの1年、直接見聞きしてきた「情報」は、ちょっと違う景色を見せてくれました。
今週はそんなメディアがあまり報じない、熊本で起きている「OSアップデート」の話です。
「お茶する場所」が「インフラ」へ。ある中国語教室の“高速進化”
「熊本に中国人と日本人がお茶を飲みながら、話せる場所をつくりたい」。
2025年2月、中国語教室「長城学院」の張会長はそう語った。TSMC進出に伴う中国語需要を見込んだ同社は、東京から熊本への進出を計画していた。しかし、あまりにビジネス色が薄い、柔らかなその言葉に「熊本でうまくいくのだろうか」と私は半信半疑だった。
その印象は、10月に興奮に変わる。
長城学院から、事業が拡大したためWebサイトを改修したいと、再び連絡があったのだ。その内容は想像以上の“進化”を遂げていた。
当初の学生向け講座に加え、熊本商工会議所と連携し、「8時間でHSK2級を取得できる」という地元企業向けの超実用的な短期講座を始めていた。さらに、すでに東京で実績のある、リアルな交流の場も熊本で本格展開するという。
「お茶を飲む場所」という“ソフト”な理想は、わずか数ヶ月で「異文化と協働するためのインフラ」という、熊本経済にとって不可欠な“ハード”な需要に変わっていたのである。
「住んでいるだけ」では見えない。「一次情報」にこだわる理由
2024年、私は「自分の言葉で語る」には実体験=「一次情報」が必要だと考え、地元の事業者との接点が多い現在の会社に職を得た。
フリーランス時代、クライアントの多くは東京で活動はリモートが中心だった。熊本に住んではいても地域社会との接点はなく、文字通り「住んでいるだけ」の状態が続いていた。
もしあのままフリーを続けていたら、私の情報源は新聞やテレビといった「二次情報」が中心だったはずだ。もちろん、それ自体が悪いわけではない。だが多くの場合、メディアが注目するのは「半導体を作る人」(エンジニア)の育成と、それに伴う「経済効果」という分かりやすい指標だ。
私自身、昨年の取材を通じて「熊本の変革はそれだけではないはずだ」という仮説を持っていた。だが、二次情報だけでは、その仮説を検証したり、「後追い」したりする機会は得にくい。
長城学院の現場で起きていた「人と人をつなぐ」ことへの需要は、まさにそうした報道からは見えてこない、「もう一つの本質」に迫る一次情報だった。
現職は、地元の事業者のリアルな動きを知れる立場にある。長城学院のような事業者だけでなく、多様な業種、そして時には自治体や教育機関の動きまで。例えば、熊本県立大学が「グローバル・スタディーズ学科」を新設したという動きは、普通に暮らしていたら、大学の関係者や入学希望者でもない限り、こんなに早く知ることはなかったはずだ。