「もう無理」が「まだやれる」に変わる、テクノロジーの使い方
「DXは難しくて冷たい」と思っていませんか?熊本のある会社は、丁寧な仕組み作りでベテランが輝く職場を実現。デジタル化のイメージが変わる、人に優しいDX導入のヒントがここにあります。

効率化、デジタル化。その言葉に、どこか冷たいイメージを抱いてはいませんか? 健康保険証のマイナンバーカード化に見られるようなデジタルへの根強い反発には「ついていけない人は置いていかれる」という疎外感があるのではないでしょうか。
しかし、先日私が出会った熊本のある運送会社の話は、そんな固定観念を鮮やかに覆すものでした。
今回の「テックてく歩く」は、人と温かく手を取り合って歩む、テクノロジーの優しい一面について、お話しします。
📝今週のテーマ:テクノロジーは「肩たたき」の道具じゃない
運送業界には、ドライバーの安全を守るため、法律で定められた「点呼」という大切なルールがあります。しかし、24時間365日稼働する営業所で、これを対面で行い続けるのは至難の業でした。
そこで導入されたのが、誰でも直感的に使える、シンプルな「遠隔点呼システム」です。 そして、この取り組みが思わぬ希望を生み出しました。
これまでは、定年や体力の問題で長距離運転が難しくなれば、豊富な経験を持ちながらも「肩たたき」の対象となっていたかもしれない、60代のベテランドライバーたち。彼らはパソコンが苦手なことも多く、事務職への配置転換も難しかったそうです。
しかしここでは、仕事を奪うと思われがちなデジタルが真逆の役割を果たしました。彼らに、このシステムの「夜間担当者」という新たな活躍の舞台を用意したのです。
そして、その価値は単なる業務の代替にとどまりませんでした。 彼らは元ドライバーだからこそ、万が一の事故やトラブルの際には、緊急の応援要員として現場に駆けつけることもできる。これは、単なる点呼担当者にはない大きな付加価値であり、会社にとって、まさに頼れる「スーパーサブ」的な存在となっているそうです。
成功のカギは「魔法」ではなく「手作り」だった
ただし導入当初は、スマホの接続トラブルや、操作に慣れないドライバーからの反発も少なくありませんでした。
驚くべきは、ここからの会社の対応です。スマートフォンの再起動方法といった初歩的な内容から、図や画像をふんだんに使った分かりやすいマニュアルを作成。さらには、操作方法を説明する短い動画まで自社で手作りし、3~4ヶ月もかけて粘り強くサポートを続けたそうです。

この地道な努力の話を聞いて、私はマクドナルドの成功に思い至りました。
マクドナルドの強さの源泉は、完璧な「マニュアル」にあります。ポテトを揚げる時間からピクルスの枚数まで、誰が、いつ、どこで作っても同じ味になるよう、全ての工程が徹底的に「標準化」されているます。
そして、この運送会社が費やした、マニュアルや動画を作るための時間と労力、そして根気。それこそが、現代における「マニュアル化」、つまり人に寄り添う「標準化」の実践そのものだったのです。
テクノロジーは、正しく使えば、人を切り捨てるどころか、誰一人取り残さない社会への扉を開く、大きな可能性を秘めています。 しかし、その扉の鍵は、最新のツールや高度なスキルではありません。この会社が粘り強く続けたような、丁寧な教育や分かりやすいマニュアル化。その地道な取り組みこそが、鍵なのです。
だからこそ、複雑な業務を標準化・簡素化し、「誰もができる」ようにすることこそ、DXがもたらす最大の価値の一つなのだと、この事例は示しています。
本当の意味でのDXとは、人に寄り添い、テクノロジーの力で誰もが参加できる仕組みをデザインすること。 「誰一人取り残さない社会」は、そんな人に優しいデジタル化にあるのではないでしょうか。
💪リデザインのためのアクション
1. あなたの「ちょっと面倒くさい」を見つけてみよう
暮らしや仕事の中で「これ、本当はもっとシンプルにできるのにな…」と感じることはありませんか? 難しく考えず、まずはスマホのメモ帳に書き出してみましょう。解決策は後からで大丈夫。気づくことが、はじめの一歩です。
2. 「自分には無理」を棚卸ししてみよう
「デジタルは苦手だから」と、諦めていることはありませんか? もしかしたら、今のあなたにピッタリの、驚くほどシンプルなアプリやサービスがあるかもしれません。まずは一つだけ、小さなことから情報収集を始めてみませんか。
3. 身近なベテランの「知恵」に光をあてよう
あなたの周りにいる、人生の先輩が持つ経験や知識。それを活かせる新しい方法はないか、少しだけ想像してみましょう。意外なコラボレーションが生まれるかもしれません。
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