「カード使えますか?」IT先進国台湾で味わったしょっぱい現実

小学生の息子との約束を果たすため、円安の中、初の海外へ。沖縄経由で向かった台湾で待っていたのは、想像とは違う現実と、お金で買えない最高の「体験」だった

「カード使えますか?」IT先進国台湾で味わったしょっぱい現実
九份の町並み

今週は巷で話題のメモアプリについて書くと予告していましたが、予定を変更します。

知的生産性の話も非常に重要なのですが、旅先での体験が予想以上に刺激的で、ぜひ皆さんにもシェアしたいと感じています。

というわけで今週は号外的に、旅のコラムをお届けします。メモアプリの話は、また改めて。

📝悩み抜いた末の「最善ルート」

「ねえ、海外はいつ行くの?」

春休みを目前にしたある日、もうすぐ6年生になる息子が言った。数年前、彼がまだ低学年の頃に交わした「小学生のうちに一度は海外へ」という約束を、しっかり覚えていたらしい。

約束は守らねばならない。しかし、カレンダーと睨めっこする私の目の前には、そびえ立つ壁があった。円安。ものすごい円安だ。九州からでは海外への直行便は少ない。かといって、成田経由は時間も費用も現実的じゃない。

こうして選んだのが、那覇経由の台湾行き。どうせならと、沖縄にも2泊することにした。国際通りをぶらりと歩き、ブルーシールアイスを頬張る。ホテルに併設されたバーでは、オリオンビールのウェルカムドリンクが待っていた。

財布を開いて知る、日本の現在地

コロナ禍の初期、世界中がマスク不足でパニックに陥っていた頃。台湾では天才IT担当大臣オードリー・タン氏が、民間のエンジニアと連携し、わずか数日で国内の薬局のマスク在庫をリアルタイムで表示する「マスクマップ」を開発したというニュースが世界を駆け巡った。その圧倒的なスピードと透明性に私の頭には「台湾=デジタル先進国」の姿が強烈に焼き付けられていた。

そんなイメージを抱いて乗り込んだ台湾で、私の思い込みは何度も裏切られていく。

最初の洗礼は、トイレだった。備え付けのゴミ箱が目に入るたびに「そうだ、紙は流せないんだった」と思い出すのだが、長年染み付いた習慣は手強い。案の定、何度か使用済みの紙を便器の中に落としてしまった。

IT先進国らしい面白い側面もある。例えば、会計時に受け取る一枚のレシート。これがなんと、国が運営する宝くじになっているのだ。2ヶ月に一度の抽選で、1等の賞金は1000万台湾ドル(約5000万円!)。これは、店側が売上をごまかせないよう、客の方から積極的にレシートを要求させるための、国を挙げたインボイス推進策。実にクレバーで、遊び心のある仕組みだ。

だが、いざ支払いの段になると話は別だった。VISAやMastercardのステッカーが貼られたスーパーで買い物し、レジで「カードは使えますか?」と聞く。すると、店員はこう言うのだ。「使えます。でも、台湾で発行されたカードだけなんです」。財布を開いて固まった。そんなスマートな制度を持つ国なのに、私のクレジットカードはほとんど役に立たなかったのだ。

自分の飲み物用カップを持参すると5元割引になることを知らせる中国語の掲示。カフェの壁に、緑の葉の装飾が施された紙で掲示されている。
マイボトルを持参すると5元割引になるという掲示。台湾はマイボトルを持ち歩いている人が多かった

鉄道もほぼ現金。わずか2日間の滞在。カード決済を当てにしたのが仇となり、私は人生で初めて、クレジットカードのキャッシング機能を使うことになった。日本のインバウンド対応は遅れている、なんて思っていた自分を恥じた。短期旅行者にとって、日本のキャッシュレス環境はむしろ優しいのかもしれない。

そして極め付けは、物価だ。何もかもが、現在の日本より少なくとも1〜2割は高い。日本の100均そっくりの店で、見慣れた商品が約300円。スターバックスで家族4人分のドリンクを頼めば、軽く3500円を超えた。初めてこの地を訪れてから20年あまり。その歳月が日本と台湾の間にこれほどの差を生んだのか。財布から減っていくお金のスピードに、円の弱さを突きつけられた。

お金で買えない思い出の作り方

これだけ聞けば、不満だらけの旅だったように思えるかもしれない。でも、答えはまったくの逆だ。なぜなら、今回の旅のテーマは「体験」なのだから。

子連れで暑い中、電車やバスを乗り継ぐのは大変だ。そこで私たちは1日、日本語が堪能なドライバーのタクシーをチャーターした。これが大正解だった。

「十分の街は昔、石炭で栄えたんですよ」

十分(シーフェン)名物のランタン揚げは、なんと現役の線路の上で行う。かつて石炭を運ぶために敷設されたというこの線路を、今では観光列車がゆっくりと走る。ガイドブックをなぞるだけではない、その土地の息遣いを感じられるのが、自分たちのペースで進む旅の醍醐味だ。

大きな白い紙に漫画風のキャラクターを描く若い人物。背景には電車や動物、ランタンなどが描かれたカラフルな壁画があり、創造的で楽しい雰囲気が漂う。
十分のランタンには自分で願い事を描く

2日目は、パイナップルケーキ作りに挑戦した。おみやげの定番を自分たちの手で。焼き上がったばかりのケーキを一つずつ、自分で包装紙に包んで箱に詰める。この箱は、どんな高級店のみやげものより、ずっと価値がある。

この感覚は、かつて天草で出会ったある外国人旅行者の言葉を思い出させた。「東京、大阪、京都はもう行った。だから、日本のカントリーサイドが見てみたかったんだ」と彼は言った。

旅に求めるのは、非日常。都市の風景はどこへ行っても似てきている。でも、その土地の歴史に触れ、自分の手を動かし、そこにしかない空気を吸い込む「体験」は、決して真似できない。

円安に驚き、現金を探して右往左往したことも、今となっては旅を彩るスパイスだ。

台湾での出来事を思い出しながら、頭の中では、もう次の計画が始まっている。スマートフォンアプリが記録した1日2万歩という数字と、九份の階段を上りきった達成感。ただ、翌日のふくらはぎの重みは忘れられない。

だから次は、どこかでただ青い海を眺めて過ごすのもいい。…なんてことを考えながらも、また、好奇心が勝ってアクティブな旅の計画を立ててしまうのかもしれない。

さて、次はどこへ行こうか。

💪リデザインのためのアクション

  • 次の休日の計画に「体験」を書き込んでみる

次の週末や休日の計画を立てる時、「どこで何を買うか」という視点に加えて、「そこでしかできない体験は何か?」という問いを立ててみませんか。

  • 「満足度」で支出を振り返ってみる

円安や物価高は、お金の使い方を改めて見つめる良い機会です。今週使ったお金の中から「これは心から満足できた!」と感じる支出を3つ選んでみてください。それはモノでしたか?それとも体験でしたか?自分の価値観が、どちらを向いているかを知るヒントになります。

  • 「もしも私が外国人旅行者なら?」と街を歩いてみる

このアクションは「日本のキャッシュレスは、旅行者には優しいかも」という発見からヒントを得ました。いつもの通勤路や近所の商店街を、「もし私が初めてこの地を訪れた外国人なら?」という視点で歩いてみましょう。当たり前だと思っていた看板や交通機関、お店の支払い方法が、新鮮な驚きや発見に満ちた風景に変わるはずです。